こんにちは。佐々木真由美と申します。神奈川県で在宅介護をしながら、80代の母とふたり暮らしをしています。
在宅介護を続けるなかで、たくさんの悩みや壁にぶつかりながらも、少しずつ試行錯誤を重ねてきました。自宅で親の介護を経験し、生活の中で感じたリアルな気づきや工夫を、同じような立場にいる方に届けたいという思いで情報発信をしています。
介護の負担を一人で抱え込まず、ときには制度やサービスをうまく活用しながら、無理のない介護生活を一緒に目指していきましょう。
自宅での介護を始めたばかりの頃、右も左も分からない状態で、毎日が手探りでした。特に困ったのが、福祉用具の導入についてです。「何を借りられるのか?」「どこまで保険でカバーされるのか?」「そもそも借りるという選択肢があるのか?」といった基本的なことすら分からず、役所やケアマネジャーに質問を重ねながら、ようやく少しずつ全体像が見えてきました。
当時、ベッドや手すりといった“高額そうな道具”はすべて購入しなければならないものと思い込んでいました。実際、介護ショップで値札を見たときにはため息が出て、「これ全部揃えるのは無理かも…」と気持ちが沈んだのを覚えています。そんなとき、介護保険で必要な用具をレンタルできる制度があると知り、目から鱗が落ちたような気持ちになりました。
この記事では、私が実際に母の介護を通して学んだ「福祉用具レンタルの基礎知識」と「具体的な活用のコツ」について、初めての方にも分かりやすく丁寧にお伝えします。
そもそも福祉用具レンタルとは?
福祉用具レンタルとは、要介護認定を受けた方が、日常生活の自立を助けることを目的として、介護保険を利用しながら必要な用具を比較的安価に借りることができる制度です。対象となるのは原則として「要介護1〜5」の認定を受けた方で、ケアマネジャーを通じて福祉用具貸与事業所と契約し、利用者負担は原則1割(所得に応じて2割・3割)となります。
私の母が要介護2と認定された際も、最初は「福祉用具って買わなきゃいけないんじゃないの?」と考えていました。でも実際には、必要なものを毎月数百円から数千円でレンタルできると知って、心から安心したのを覚えています。中でも高額になりがちな電動ベッドや手すりなどは、購入するよりも断然レンタルの方が現実的で、かつ状況が変わったときにも返却や変更が可能なので、柔軟に対応できます。
状態が良くなれば返却すればよく、必要に応じて別の用具に切り替えることも可能です。この「必要なときに、必要なものだけを使う」という考え方が、在宅介護を無理なく継続していくための大きな支えになると私は感じています。
介護保険でレンタルできる福祉用具一覧
以下は、介護保険制度でレンタル対象となっている代表的な福祉用具です。実際にレンタルを検討する際は、これらの中から「必要なものを必要な時期にだけ」借りることが原則です。
●車いす
外出時だけでなく、室内での移動にも活躍。介助式と自走式がある。
●車いす付属品(クッション、フットサポートなど)
褥瘡(床ずれ)予防や長時間の使用を快適にするために重要。
●特殊寝台(電動ベッド)
背上げ・脚上げが可能で、起き上がりや移動をサポート。
●特殊寝台付属品(マットレス、サイドレールなど)
転落防止や身体の安定のためにセットで使うことが多い。
●手すり(工事不要タイプ)
ベッドサイドやトイレ、廊下などに置いて使える。移動や立ち座りを補助。
●スロープ(簡易なもの)
玄関や段差のある場所に置いて車いす移動をスムーズに。
●歩行器
安定感が高く、室内外での歩行補助に便利。
●歩行補助つえ(多点杖など)
一本杖よりも安定感があり、屋内移動に適している。
●認知症老人徘徊感知機器
ドアの開閉や動きを感知して通知するセンサーなど。認知症の方の安全管理に。
●移動用リフト(つり具を除く)
介護者が抱え上げずに移乗できるため、腰痛予防にもなる。
●自動排泄処理装置の本体
排泄の自立が難しい方のために、吸引・洗浄を自動で行う装置。
なお、要支援および要介護1の方は、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえ以外の種目については、原則給付の対象外となります。また、自動排泄処理装置(尿のみを自動的に吸引するものは除く)については、要介護2および要介護3の方も含めて、原則給付の対象外となります。ただし、身体の状態等によっては、要介護認定における基本調査結果に基づく判断や市町村への申請により、給付の対象となる場合もあります。 厚生労働省のページ
私の母のケースでも、最初にカタログを見せてもらったときには「こんなに種類があるの?」と驚きました。とくに手すりやマットレスといった“細かいアイテム”の存在は、知らなければ気づけないものです。必要になってから慌てるのではなく、事前に「こういうものもあるんだ」と知っておくだけでも、いざという時に慌てずに済むと感じました。
ただし、状態や要介護度によってはレンタルできない品目もあります。たとえば「要支援1・2」では一部の用具が対象外になることがありました。私もケアマネジャーさんに「今はこれは借りられませんが、状態が変わったときに改めて相談しましょう」と丁寧に説明してもらったことで、制度への理解が深まりました。
一覧を見ると「こんなに借りられるの?」と驚かれる方も多いと思います。でも実際に使ってみると、どれも暮らしを支えるための“縁の下の力持ち”のような存在でした。まずはどんなものがあるのかを知ることから、一歩ずつ始めてみてください。
私の体験:最初に借りたのは手すりとベッド
私の母が要介護2と認定された直後、ケアマネジャーさんの提案を受けて最初にレンタルしたのが、介護用の電動ベッドと立ち上がり補助用の手すりでした。
それまでは「ベッドを借りる」という発想自体がまったくなく、家の布団でなんとかなると思っていました。でも実際にレンタル業者の方が来てくれて、設置してくれたときには、まるで病院のように機能的で、なおかつ家庭的な雰囲気を損なわない設備に驚きました。
使い始めてからは、想像以上に生活が一変しました。特に電動ベッドは、母が自分の力で起き上がるきっかけを作ってくれました。それまでは「手伝って」と言っていたのが、少しずつ「自分でできる」と言ってくれるようになり、私の介助の手間も格段に減りました。
母自身も、「最初は大げさだと思ってたけど、これはもう手放せないね」と言うほど気に入っています。自尊心が保たれること、そして“自分でできる”という実感があることが、介護される側にとってどれだけ大きな意味を持つのかを、私は身をもって学びました。
福祉用具って、単なる「道具」だと思っていました。でも実際は、介護する人・される人、両方の心と身体を支えてくれる大切なパートナーなんだと感じています。最初の一歩こそ勇気がいりますが、一度使ってみると、そのありがたさが身に染みて分かるはずです。
福祉用具を選ぶときのポイント
ここでは、私自身が福祉用具を選ぶうえで実感した「これは知っておくべきだな」と思ったポイントを、具体的な体験を交えてご紹介します。どれも小さなことのように見えますが、実際の介護の現場では、それが大きな差につながります。「なんとなく」で決めるのではなく、しっかりと比較・確認したうえで選ぶことで、本人も介護者も安心して日々を送ることができます。
ケアマネジャーに相談する
介護の現場では、「何が本当に必要なのか」を自分たちだけで判断するのはとても難しいものです。だからこそ、まず最初に頼るべきはケアマネジャーです。彼らは福祉用具の制度や種類だけでなく、利用者本人の状態や家庭環境まで含めて最適な選択肢を提案してくれる“専門家”です。
私も、母が転倒を繰り返すようになった頃、「何か対策をしなければ」と焦っていたときに、ケアマネジャーさんが手すりの提案をしてくれました。私の目にはあまり目立たなかった動線のクセや、立ち上がりの角度まで見て判断してくださったことに驚きましたし、とても安心できました。
介護保険でレンタルできるからといって、何でも使えばいいというものではなく、“本当に合っているもの”を選ぶことが大切です。その判断をサポートしてくれる存在として、ケアマネジャーの助言は非常に頼りになります。
介護をしていると、つい「自分でなんとかしよう」と思ってしまいがちです。でも、一歩立ち止まって専門家に相談してみると、思わぬ視点から助けが得られることがあります。ケアマネジャーさんとの信頼関係が、介護をぐっと楽にしてくれる大きな鍵だと私は感じています。
試してから決める
福祉用具は見た目や説明だけでは分からない部分が多く、実際に使ってみることで初めて「合う・合わない」がはっきりするものです。用具によっては試用が可能な場合があり、これはぜひ活用したいポイントです。
私の母も、歩行器を導入する際に試用をさせてもらったことがありました。カタログで見たときには「これが一番軽くて良さそう」と思っていたモデルが、実際には母の体格に合わず、逆に疲れやすくなってしまいました。一方、少し重めだけれど安定感のあるタイプは「これなら安心して歩ける」と言って、気に入ってくれました。
特に、高齢者にとっては使いづらさがストレスにつながり、用具そのものを使わなくなってしまうこともあります。だからこそ、“試してみる”というプロセスは、安心して使い続けるための大事な一歩だと私は感じています。
カタログや説明だけでは分からないこと、意外と多いんです。試用ができるなら、遠慮せずにお願いしてみてください。使ってみて初めて見えてくることが、たくさんありますよ。
自宅環境との相性をチェック
どんなに便利な福祉用具でも、実際の生活空間に合っていなければ、かえって使いにくくなってしまうことがあります。設置スペースが確保できない、段差の関係で使えない、動線をふさいでしまう——こういった事例は意外と多く、私も実際に体験しました。
たとえば、母のベッド脇に置こうとした手すりが、思ったよりもスペースを取ってしまい、夜間の移動がかえって危険になったことがありました。また、歩行器も種類によっては曲がり角を通れないなど、家の間取りとの相性をしっかり考える必要があると感じました。
「置ける」ではなく「安心して使える」ことが大事です。事前に自宅を確認してもらうことや、設置後に家族全員で実際に動線を試してみることがとても有効です。
カタログや説明では分からない“生活の中での使い心地”は、現場を見て、動いてみないと分かりません。家の中にどう置けるか、どこをどう通るのか、一緒にシミュレーションしてみることをおすすめします。
必要に応じて見直す
介護は日々状況が変化していくものであり、それに合わせて使う福祉用具も見直していく必要があります。「最初に決めたからずっとこれで大丈夫」というわけではありません。身体機能の低下だけでなく、逆にリハビリの成果で回復が見られることもありますし、季節の変化や住環境の変更、介護者の体調によっても必要な道具は変わってくるものです。
私の母も、最初は立ち上がり補助の手すりだけで充分だと思っていましたが、ある冬の日に足元を滑らせてしまったことをきっかけに、歩行器の導入を検討することになりました。最初は嫌がっていた母も、「これなら転ばずに済みそうね」と納得してくれ、今では散歩にも使っています。
ケアマネジャーさんとの定期的な面談の中で、「最近困っていることはありますか?」「動きにくくなった場所は?」といった会話がヒントになります。こうした小さな変化に気づいて対処することが、大きな事故や負担の軽減につながると感じています。
介護をしていると、「一度決めたらそれで終わり」と思いがちですが、人の体も暮らしも、常に変化していくもの。だからこそ、今の状態に合っているかを定期的に振り返ってみてください。必要に応じて用具を見直すことで、より安全で快適な介護環境が整いますよ。
福祉用具レンタルは“介護者の味方”
在宅介護は、想像以上に体力も気力も必要とされる日々の積み重ねです。そんななか、福祉用具があるかないかで、その負担が劇的に変わってきます。ベッド、手すり、歩行器…どれも単なる“道具”ではなく、生活そのものの質を左右する存在だと私は感じています。
福祉用具レンタル制度を知った当初は、正直「こんな便利な仕組みがあるなら、もっと早く教えてほしかった」と思いました。それまでは手探りで、身の回りの道具を家族で工夫して対応してきましたが、やはり“介護のプロが考えた道具”には敵いませんでした。
私自身、「もっと早く使っていれば…」と何度も思いましたし、実際に利用してからは「なぜあんなに頑張りすぎていたんだろう」と、少しだけ肩の力を抜けた気がしました。福祉用具を使うことは、決して“甘え”ではなく、今ある制度を正しく活用するという前向きな選択です。
最初の一歩は誰でも不安です。「必要以上に頼ってはいけない」と思い込んでいた私も、福祉用具に助けられて気づいたのは、“頼る”ことは“諦め”ではなく、“より良く暮らすための手段”だということでした。自分ひとりで頑張らず、制度や仕組みをどんどん活用して、介護を少しでも「続けやすい形」にしていけたらいいですね。